俺様御曹司による地味子の正しい口説き方
地味子、卒業します


もう今日は朝から疲れた。
まだ月曜日なのに。

ムワッと熱のこもった部屋へ帰宅して、一言『ただいま帰りました。お風呂に入ってきます』と恭一君にラインを入れて彼からの返信を避ける口実を入れる。

窓を開けたいところだけど、時間も時間だしエアコンにてを伸ばす。

これも恭一君からのお達しだ。
『夜に窓はなるだけ開けるなよ。お前は女なんだからもっと危機感もてって』


既に私の生活の端々に恭一君が刷り込まれていて、彼の甘すぎる過保護っぷりもこうやってエアコンを入れるたび、ラインを入れるたび、電車に乗るたび、帰り道を歩くたび、思い出しては顔が綻んで幸せを感じていたのに。


エアコンをいれながら、胸が痛んだ。

キンコン、とラインを受信した音がした。
こんな時間に入るラインは恭一君しかいなくて。いつもどおりの心配性の彼が、私の帰宅ラインを見て返信をくれたのだ。

『お帰り。早く風呂入って寝るように』
『今度から俺がいるときに行くようにして。帰りが心配すぎる』

既読がつかないように携帯に表示された受信中のラインをすばやく読み取った。


いつもなら『過保護すぎる(笑)』って返信するのに。
『接待頑張ってね』
『おやすみ』

って、打てばいいだけなのに。

なんて表現して良いのか分からないこのモヤモヤと苛立ちに、顔の見えないラインだけのやり取りでさえもする気になれなかった。

はぁ……。
このまま未読で終わらせたい。
でも、既読にしないと100%電話がかかってきそう。


後々追い詰められるのは私だ。
たとえモヤモヤのままでも、今一言返信するだけでこの煩わしさからも解放されて後は携帯を放置できるのに。

理屈では分かっていても、どうしても体が動かなかった。









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