俺様御曹司による地味子の正しい口説き方


コップに注いだビールを両手でもって、体育座りをするように膝を抱え、少しずつ口に含み、頭の中で整理しながら言葉にする。

「まだ、その事は私の中でそれほど恐怖というか危機感は持つ出来事ではなかったんです。誰だか分からない少しの気味悪さと、なんともいえないモヤモヤが残るだけでした。大事にして華ちゃんに心配かけたくなかったし」

「もうっ。そんな気を使わないの!」

「うん。ごめんなさい。でも、金曜の夜に恭一君も会いに来てくれてモヤモヤしていた気持ちも落ち着いて、もう大丈夫だって思えたんです」

「…………へぇー。ふーん。本当甘いわねあの子。最近デレデレしすぎじゃない。で?その時になんで言わなかったのよ」

「言うほどの事じゃないと思って……ロッカーにも私物を置かなければそれで済むと思ってたんです」

「おばか。黙ってたって知ったら絶対煩いわよ。で?それだけじゃないでしょ?何で一気にこんな悪質になってるの?昨日は?何があった?」

手にもっていたコップをテーブルに置いて、覗き込むように華ちゃんを軽く見上げた。
「お、怒らないで下さいね」と小声で前置きして、

「ロッカーは何もされてなかったんです。でも、私のパソコンに金曜日に保存した筈の川北次長のプレゼン資料が削除されていて……朝から作り直して……でもなんとか間に合って、良かったです」

「はぁ?仕事にこんなこと持ち込んできたの?何考えてんのよ桃山のやつ」

「は、華ちゃん。まだ彼女と決まった訳じゃっ、」

「他にいないでしょ!?」
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