俺様御曹司による地味子の正しい口説き方
口説かれたのは……
あの日以来、ロッカーに悪戯されることは無くなった。
あの白いシャツが最終警告だったんだろうな。あれをする意味は分からないけれど得たいの知れない恐怖は味わった。
そこまでのことをキヨさんが指示したのか、桃山さんが独断で決行したのか分からないことは多いけれど、あっという間の一週間が終わる。
今日は会社の創立祭だ。
昼間は社員を集めての慰労をかねた立食パーティーだけど、夕刻からは協賛会社や関連企業を集めての感謝祭のようなものになる。そこに私もお手伝いで参加する予定になっている。
別れる気などないけれど、どうしたらいいんだろう?どうしたら分かってくれる?
月曜日に又待ち伏せされて、別れたかどうか聞きにくるんだろうか。
土曜日の今日、朝から華ちゃんに呼び出された。支度に時間がかかるわけでもないから快く返事をして、待ち合わせの場所に来てみたけれど……あれ?ここって前に来た美容院だよね?
そうそうこんな名前の美容室だったな。
お店の前で懐かしいな、と思いを巡らせていると「おはよう。じゃあ行くわよ」と、腕を取り私の返事も聞かずに華ちゃんは美容室へ入っていった。
「「「いらっしゃいませー」」」
なんて言われて分けも分からないまま華ちゃんと並んで椅子に座らされる。
「今日は、前髪と合わせて全体に軽くという形で宜しかったですかぁ?」
「はい、それでお願いします」
と何故か華ちゃんが答えた。
違うよね?
「華ちゃん!?私切っちゃうんですか!?」
「あ。杏、切るのに邪魔だから眼鏡はずして」
華ちゃんがそういうと、「失礼しまーす」と美容師さんが私の眼鏡を外してくれた。
視界が悪くなった上にジョキジョキハサミを入れられる。
あーーーーー。
切られていく……。
いや、髪型に拘りがある訳じゃないからいいんだけど、いいんだけど、突然すぎて状況が掴めない。