俺様御曹司による地味子の正しい口説き方


和やかに食事もすみ、片付けをかって出た。

「食事の用意もしていただいたんですから、お方付けくらいさせて下さい。その間にお風呂でもどうぞ?私の家ではありませんが」

「ハハッ、そうか。助かる」


洗面所に向かう恭一の背中を見送り、片付けにかかる。
とりあえず、しまう場所が分からないから拭いて置いておこう。
二人分のお皿はあっという間に片付いた。
恭一はまだ出てきていない。

前は動揺しすぎて部屋を見る余裕も無かったが、30階建のタワーマンションの25階角部屋のこの部屋の窓からは綺麗な夜景が広がっていた。

目をキラキラさせて、少しだけ……と、ベランダに出てみる。
眼下に広がるこの夜景は華やかな恭一のようで、星の見えない真っ黒な空は私のようだ。
私地味だもんなぁ、、、。
何か1つでも光る何かがあれば、もう少し自信が持てるのだろうか。


吸い込まれそう…………。


ベランダに置いてあったリクライニング式のデッキチェアに座り込み、サンダルを脱いで体育座りのように足を囲い込みながらそのまま空を見上げる。

真っ黒な空に、小さな三日月が光る。

なんて綺麗……。
こんなにゆっくり空を眺めることなんて久しぶり。
部屋が高いせいか風も心地よい。
遠くで聞こえる町の喧騒も子守唄のようだ。
今日は疲れた。
無意識に目を閉じて、音に耳を傾ける。
そして、聞こえていたはずの喧騒も小さく消えて、杏はそのまま意識を手放した━━━
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