御曹司といきなり同居!?
「森野紗希さん?」
指定された駅のポストの横に立っていると、横から名前を呼ばれる。
七月十八日。梅雨もあけ、堂々と夏といえるこの時期の空は、十七時でもまだまだ明るさを保っていた。
太陽自体は沈んでいるのに空が明るいのはなんでなんだろうと、こどもの頃、不思議に思っていたことを思い出す。
空には太陽のなごりの明るさが、そして地上には昼のなごりの暑さが残っていた。
声のしたほうを見上げると、予想していたよりも高い位置に顔があって少し驚く。遅れて、顔立ちのよさにも驚いた。
圧倒されるような雰囲気があるからそれも手伝っているのかもしれないけれど……それにしたって美形だ。
奥二重の瞳も、スッと通った鼻筋も、形のいい唇も、全部のパーツが綺麗で思わず見とれてしまう。
180センチ近くあるその人は、髪を自然な感じで後ろに流していた。
髪が顔を覆っていないから、余計に整った顔立ちが目立つのかもしれない。
平日の十七時。普通の社会人は働いている時間帯。
この人も仕事を抜け出して、だとかそんな感じなんだろう。
ダークグレイのスーツもきちんと締めているストライプのネクタイもよく似合っていた。
普段、芸能人だとかモデルだとか、そういった人には興味がないからよくわからないけれど、たぶん、そういうレベルの人だ。
うっかり流されてしまいそうなオーラがあるのも、美形で長身だからなのだろうか。