金木犀のエチュード──あなたしか見えない
ーー音楽科でヴァイオリン教えていた准教授が居ただろ。あの人が付き添って、詩月のおふくろさんに連絡入れてくれたんだと。おふくろさんには『楽器店に寄って帰る、20時には帰るから』とメールを送ってきたらしいけど、楽器店とは全く違う方向だろ

「だから病院から電話があった時は……親切な方が居てくださって良かったと」

「ご心配だったでしょ。病院へ連絡してくださった方とは?」

「それが病院に駆けつけた時にはいらっしゃらなくて、お礼もしていないんです」

母と詩月くんのお母さんの話に耳を傾けながら、詩月くんがお母さんには何も話していないんだなと思った。

わたしは岩舘さんから又聞きしたことを話すわけにもいかず、ただ彼女たちの話をそわそわしながら聞いていた。

「小百合さん。もう1度ヴァイオリン始める気はないかしら? あなたさえ良ければレッスン、いつからでもいらっしゃい。百合子先生のような立派なご指導には及ばないけれど」
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