金木犀のエチュード──あなたしか見えない

episode７ーエピローグ

「長い間お休みしていたぶん、指が硬くなっているのは否めないけれど、さすがね。百合子先生から教わった基礎がしっかりしているわね」

詩月くんのヴァイオリンコンクールから半月後。

わたしは詩月くんのお母さんのヴァイオリン教室に通い始めた。

詩月くんと一緒に、お婆ちゃまにヴァイオリンを習っていた頃が懐かしい。

いつもレッスン後に、お婆ちゃまに宥められながら泣いていた詩月くんを思い出す。

あの詩月くんがヴァイオリンコンクールで優勝し
た。

コンクールの副賞は、１年間契約でＮフィルハーモニー交響楽団と共演。

詩月くんは放課後はＮフィルに通っている。

１２月の「第九演奏公演」に向けて、慌ただしい毎日のようだ。

安坂さんはヴァイオリンコンクール後、大学のオーケストラ部コンサートマスターになった。