金木犀のエチュード──あなたしか見えない
男性の指が鳴らせない音、遅れた音を補う。

自分自身の演奏を主張しない。

――なんて紳士的な弾き方をするのだろう

うっとりしていると、不意に目が合った。

碧い瞳に見つめられ、ハッとして慌てて目を逸らす。

彼は何事もなかったように澄まし顔に戻った。

淡い茶色の髪が夕日に照らされ赤く染まっている。

オフホワイト色をした制服のブレザーも薄く夕日色に染まり、彼の奏でるヴァイオリンも光沢が更に際立っていた。

共に演奏を弾き終えた男性と詩月くんは、お互いの姿をシルエットのみ確認しただけだ。

言葉を交わすことなく、背中を向けた詩月くんを男性は静かに見送った。

わたしは数歩近づいて、男性の顔を確認する。

見覚えのある顔だと思い、何処で見たのかを考えていると、男性に声を掛けられた。
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