金木犀のエチュード──あなたしか見えない
「リリィの……百合子さんのお孫さんだね。お悔やみに行けなくて済まなかった」
「えっ? お婆ちゃま……祖母をご存知なんですか」
「百合子さんは大学の後輩だった……このヴァイオリンは彼女からのエールだった。応えられないまま、形見になってしまうとは思わなかった」
男性の顔を注視し、息を飲んだ。
祖母の部屋の暖炉の上にある、幾つかの写真立ての1つに男性によく似た人が写っていたのを思い出した。
まだ若い男性と祖母が肩を並べ、制服姿で写っている写真だ。
「お婆ちゃまの」
言いかけて言葉を飲み込む。
いつだったか祖母が写真を手に取り、懐かしそうに語ったことがある。
「約束していたのよ。イザイコンクールのファイナルに、もしも2人揃って残ったら『懐かしい土地の思い出』を弾いて、同曲対決をしましょうと」
「えっ? お婆ちゃま……祖母をご存知なんですか」
「百合子さんは大学の後輩だった……このヴァイオリンは彼女からのエールだった。応えられないまま、形見になってしまうとは思わなかった」
男性の顔を注視し、息を飲んだ。
祖母の部屋の暖炉の上にある、幾つかの写真立ての1つに男性によく似た人が写っていたのを思い出した。
まだ若い男性と祖母が肩を並べ、制服姿で写っている写真だ。
「お婆ちゃまの」
言いかけて言葉を飲み込む。
いつだったか祖母が写真を手に取り、懐かしそうに語ったことがある。
「約束していたのよ。イザイコンクールのファイナルに、もしも2人揃って残ったら『懐かしい土地の思い出』を弾いて、同曲対決をしましょうと」