金木犀のエチュード──あなたしか見えない
「あの、腱鞘炎になってしまうんですか」
「そうだな、無理な運指は指に負担が掛かる。炎症を起こし痛み出さなければいいが……弾けない辛さがどれほどのものか」
祖母がアランと呼んでいた男性は、再び自分の指を見つめた。
「あの……諦めないでください。お婆ちゃまの好きだった曲『懐かしい土地の思い出』弾いてください」
男性の目が見開かれる。
「詩月くんはさっきの演奏で『頑張れ』と、エールを送っているみたいでした」
男性の傷ついた指で弾けるようになるのは無理かもしれないけれど、頑張ってほしいと思う。
「『懐かしい土地の思い出』を鶴岡八幡宮で聴いた、あれはリリィが」
男性の目に力が感じられる。
「詩月くん、お婆ちゃまのお悔やみに来てヴァイオリンを弾いたんです。悲しさを押し殺したみたいに」
わたしは祖母の代わりに、詩月くんを見守っていてほしいという願いをこめた。
「そうだな、無理な運指は指に負担が掛かる。炎症を起こし痛み出さなければいいが……弾けない辛さがどれほどのものか」
祖母がアランと呼んでいた男性は、再び自分の指を見つめた。
「あの……諦めないでください。お婆ちゃまの好きだった曲『懐かしい土地の思い出』弾いてください」
男性の目が見開かれる。
「詩月くんはさっきの演奏で『頑張れ』と、エールを送っているみたいでした」
男性の傷ついた指で弾けるようになるのは無理かもしれないけれど、頑張ってほしいと思う。
「『懐かしい土地の思い出』を鶴岡八幡宮で聴いた、あれはリリィが」
男性の目に力が感じられる。
「詩月くん、お婆ちゃまのお悔やみに来てヴァイオリンを弾いたんです。悲しさを押し殺したみたいに」
わたしは祖母の代わりに、詩月くんを見守っていてほしいという願いをこめた。