金木犀のエチュード──あなたしか見えない
時折、風が吹いてくるけれど生暖かくてガッカリする。
詩月くんも、この暑さの中を山下公園に歩いていくのだろうかと思う。
わたしと志津子が山下公園に着いた時、詩月くんは海に向かい水神像を背にし、凛としてヴァイオリンを奏でていた。
淡い茶色の髪が陽に透けて金色に光っていた。
カモメの水兵さんの歌碑辺りから、演奏を聴いているわたしたちの直ぐ側で、安坂さんと緒方さんの話声が聞こえてきた。
「今でこそ『ヴァイオリン王子』と呼ばれているけれど……理久から聞いたんだが、周桜は街頭演奏を始めた初めの1年くらいは緊張で震えて泣きながら弾いていたらしい」
「……彼が!?」
「信じられないだろ?あいつの演奏の先には、聴き手がいる。数日前にヴァイオリンの課題曲『ヴォカリーズ』を聴いたが……」
詩月くんも、この暑さの中を山下公園に歩いていくのだろうかと思う。
わたしと志津子が山下公園に着いた時、詩月くんは海に向かい水神像を背にし、凛としてヴァイオリンを奏でていた。
淡い茶色の髪が陽に透けて金色に光っていた。
カモメの水兵さんの歌碑辺りから、演奏を聴いているわたしたちの直ぐ側で、安坂さんと緒方さんの話声が聞こえてきた。
「今でこそ『ヴァイオリン王子』と呼ばれているけれど……理久から聞いたんだが、周桜は街頭演奏を始めた初めの1年くらいは緊張で震えて泣きながら弾いていたらしい」
「……彼が!?」
「信じられないだろ?あいつの演奏の先には、聴き手がいる。数日前にヴァイオリンの課題曲『ヴォカリーズ』を聴いたが……」