金木犀のエチュード──あなたしか見えない
険しかった安坂さんの顔に穏やかさが戻り、緒方さんに優しく微笑みかける。
「負けられない相手なんだろう、ヤツは?」
「ええ……」
緒方さんは涙を拭って顔を上げた。
街頭演奏をしている詩月くんは「ヴァイオリン王子」と呼ばれていて、チヤホヤされて、いい気になっていると批判や反感を買っている――志津子は道すがら話していた。
祖母は詩月くんが中学2年生から街頭演奏を始めたことも、緊張と不安で泣きながら弾いていた様子も、細かく日記に書いていた。
「ヴァイオリン王子」などという軽々しい呼び方で呼ばれるほど、甘いものではないことを改めて考えさせられる。
「解説つきで得した気分ね」
志津子はわたしの耳元で呟いた。
「このメンコンがコンクールでは、きっともっとすごい演奏になるのよ」
目を輝かせる。
「負けられない相手なんだろう、ヤツは?」
「ええ……」
緒方さんは涙を拭って顔を上げた。
街頭演奏をしている詩月くんは「ヴァイオリン王子」と呼ばれていて、チヤホヤされて、いい気になっていると批判や反感を買っている――志津子は道すがら話していた。
祖母は詩月くんが中学2年生から街頭演奏を始めたことも、緊張と不安で泣きながら弾いていた様子も、細かく日記に書いていた。
「ヴァイオリン王子」などという軽々しい呼び方で呼ばれるほど、甘いものではないことを改めて考えさせられる。
「解説つきで得した気分ね」
志津子はわたしの耳元で呟いた。
「このメンコンがコンクールでは、きっともっとすごい演奏になるのよ」
目を輝かせる。