金木犀のエチュード──あなたしか見えない
「ちゃんと考えて弾いているんじゃない?」
志津子は平然としている。
安坂さんと緒方さんはメンコンの演奏が終わると早々に居なくなった。
17時を知らせるカラヤンの音色が鳴り響く。
詩月くんは弾いていた曲を最後まで弾き終え、ヴァイオリンを下ろして、聴き手へ向かって深々と一礼した。
ヴァイオリンをケースに仕舞う詩月くんの肩が忙しく動いている。
辛そうな荒い息遣いが聞こえてきそうだ。
ヴァイオリンケースを肩に掛け、胸に手を当て、ゆっくり立ち上がる。
「小百合、わたしたちも」
志津子が声を掛けた時だった。
数歩、足を進めた詩月くんの体がぐらりと揺れた。
わたしは咄嗟に「詩月くん」と呼びながら駆け寄り、沈み込む詩月くんの体を支えた。
「……大丈夫だから」
細く掠れ気味の柔らかい声が耳元で聞こえた。
志津子は平然としている。
安坂さんと緒方さんはメンコンの演奏が終わると早々に居なくなった。
17時を知らせるカラヤンの音色が鳴り響く。
詩月くんは弾いていた曲を最後まで弾き終え、ヴァイオリンを下ろして、聴き手へ向かって深々と一礼した。
ヴァイオリンをケースに仕舞う詩月くんの肩が忙しく動いている。
辛そうな荒い息遣いが聞こえてきそうだ。
ヴァイオリンケースを肩に掛け、胸に手を当て、ゆっくり立ち上がる。
「小百合、わたしたちも」
志津子が声を掛けた時だった。
数歩、足を進めた詩月くんの体がぐらりと揺れた。
わたしは咄嗟に「詩月くん」と呼びながら駆け寄り、沈み込む詩月くんの体を支えた。
「……大丈夫だから」
細く掠れ気味の柔らかい声が耳元で聞こえた。