金木犀のエチュード──あなたしか見えない
「詩月くんは……夏休みいっぱい入院しているのよ。お母さんには心配するから話せなかったけれど」
「えっ、病み上がりなの?」
「何処が悪いのかは聞いていないけれど、彼はもともと体が弱くて、無理が利かないみたい。お母さんの日記にその辺りが書かれていないかしら?」
「10年分の日記ですもの、まだ半分も読んでいないわ」
「コンクールの本選までには渡してあげたいの」
「本選っていつ?」
「10月下旬からだったかしら? あなた同じ学校でしょう」
母の記憶はいつも大雑把だ。
「小百合、あなた試験は大丈夫なの?」
「あーハイハイ、わかってるわよ」
わたしはそそくさと自室に退散し、日記を開く。
詩月くんは5才から祖母にヴァイオリンを教わり始め、3才からピアノも習っている。
「えっ、病み上がりなの?」
「何処が悪いのかは聞いていないけれど、彼はもともと体が弱くて、無理が利かないみたい。お母さんの日記にその辺りが書かれていないかしら?」
「10年分の日記ですもの、まだ半分も読んでいないわ」
「コンクールの本選までには渡してあげたいの」
「本選っていつ?」
「10月下旬からだったかしら? あなた同じ学校でしょう」
母の記憶はいつも大雑把だ。
「小百合、あなた試験は大丈夫なの?」
「あーハイハイ、わかってるわよ」
わたしはそそくさと自室に退散し、日記を開く。
詩月くんは5才から祖母にヴァイオリンを教わり始め、3才からピアノも習っている。