金木犀のエチュード──あなたしか見えない
細身で儚い印象からは思いもよらない演奏に、言葉を失い立ち尽くした。

祖母の死を愁い偲び泣く哀悼の念が痛いほど伝わってくる。

――お婆ちゃまはこれほどの弾き手を育てたの?

普段は穏やかで優しい性格の祖母が、どんな風に彼を指導したのか、不思議だった。

――他の演奏も聴いてみたい。もっと彼を知りたい

悲しみも忘れ、感動にうちふるえながら、彼の奏でる「懐かしい土地の思い出」に聴き入っていた。

「小百合、お茶を淹れてくれないかしら」

部屋に入ってきた母の気配にさえ、気づかなかった。

肩をそっと叩き声を掛けられ、ハッとする。

「詩月くん、演奏ありがとう。母もきっと安心したと思うわ。ずっと、貴方のことを気に掛けていたのよ。母は本当は貴方をずっと教えたかったの。でも、貴方の成長があまりにも速くて追いつかなくて……」
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