金木犀のエチュード──あなたしか見えない
episode4―コンプレックス
1話/老婆心
ラ・カンパネッラのピアノ演奏が終わった直後、通気孔から数人の慌てた声が聞こえてきた。
「だから言わんこっちゃない」
はっきりと聞こえた声は、詩月くんを背負って行った理久という人の声だったと思う。
わたしと志津子は急いで、階段で試験会場音楽室のある3階へ下った。
詩月くんが理久という人に抱きかかえられ、保健医が側に付いていた。
「自由曲を弾き終えた直後に倒れるなんてな」
「あんな状態でどんな演奏したんだ?」
「防音になっていて良かったよ。あいつの演奏、『ローレライ』だからな」
「ローレライって、あれだろ!? ギリシャ神話に出てくる半人半鳥の怪物。歌声で船乗りを惑わし、難波させる……」
「そうそう、コンクール荒らしという異名もあるしな」
志津子は「ひどい言われようね」と頬を膨らませた。
「だから言わんこっちゃない」
はっきりと聞こえた声は、詩月くんを背負って行った理久という人の声だったと思う。
わたしと志津子は急いで、階段で試験会場音楽室のある3階へ下った。
詩月くんが理久という人に抱きかかえられ、保健医が側に付いていた。
「自由曲を弾き終えた直後に倒れるなんてな」
「あんな状態でどんな演奏したんだ?」
「防音になっていて良かったよ。あいつの演奏、『ローレライ』だからな」
「ローレライって、あれだろ!? ギリシャ神話に出てくる半人半鳥の怪物。歌声で船乗りを惑わし、難波させる……」
「そうそう、コンクール荒らしという異名もあるしな」
志津子は「ひどい言われようね」と頬を膨らませた。