金木犀のエチュード──あなたしか見えない
「わたし、詩月くんの演奏を聴いてヴァイオリン諦めたの。どんなに練習しても詩月くんに敵わなかったから」
「もったいない」
「運指がデタラメなのに、すごい演奏で……なのに詩月くんはいつも自分の演奏に満足していなくて……祖母が詩月くんを指導するたび、どれだけ彼に期待しているかを感じて……やる気が失せてしまって」
志津子は大きく手ぶりをつけ、信じられないと呟いた。
「泣き虫だった詩月くんが、あんなに負けず嫌いになっているなんて思わなかった」
「そんなに泣き虫だったの?」
志津子は目を大きく見開いている。
「ええ、いつも泣きながら演奏していて……泣き顔しか思い出せないくらい。それにコンクールは緊張で当日に、必ず熱を出して出場したことがないの」
「今の彼からは想像がつかないわね」
「そうね。……手は大丈夫なのかしら」
「もったいない」
「運指がデタラメなのに、すごい演奏で……なのに詩月くんはいつも自分の演奏に満足していなくて……祖母が詩月くんを指導するたび、どれだけ彼に期待しているかを感じて……やる気が失せてしまって」
志津子は大きく手ぶりをつけ、信じられないと呟いた。
「泣き虫だった詩月くんが、あんなに負けず嫌いになっているなんて思わなかった」
「そんなに泣き虫だったの?」
志津子は目を大きく見開いている。
「ええ、いつも泣きながら演奏していて……泣き顔しか思い出せないくらい。それにコンクールは緊張で当日に、必ず熱を出して出場したことがないの」
「今の彼からは想像がつかないわね」
「そうね。……手は大丈夫なのかしら」