金木犀のエチュード──あなたしか見えない
「知られたくなかったのよ。10年もレッスンに通ってきたのに、詩月くんは身体のことは何にも話さなかったの」
「そんな……」
「詩月くんのお母さんが1度だけ、お母さんに詩月の身体が弱いのは自分のせいかもしれないと、泣きながら話していたことはあったんだけど」
「──腱鞘炎……」
「詩月くんのお母さん、腱鞘炎がかなりひどかったらしくて、痛み止めの薬を飲みながら、何年も演奏をされて……詩月くんがお腹にいるのがわかった時に、演奏家生命を断たれたの」
母は勉強机の椅子に腰掛けた。
「詩月くんのために薬の服用を一切止めて、腱鞘炎の治療にもリハビリにも専念して……だけどね、妊娠健診の時、詩月くんが障害を持って産まれてくるかもしれないと言われたんですって」
「……つまり、中絶を勧められた?」
「ええ……でも、演奏家生命を断たれて間もなかった詩月くんのお母さんは──」
「そんな……」
「詩月くんのお母さんが1度だけ、お母さんに詩月の身体が弱いのは自分のせいかもしれないと、泣きながら話していたことはあったんだけど」
「──腱鞘炎……」
「詩月くんのお母さん、腱鞘炎がかなりひどかったらしくて、痛み止めの薬を飲みながら、何年も演奏をされて……詩月くんがお腹にいるのがわかった時に、演奏家生命を断たれたの」
母は勉強机の椅子に腰掛けた。
「詩月くんのために薬の服用を一切止めて、腱鞘炎の治療にもリハビリにも専念して……だけどね、妊娠健診の時、詩月くんが障害を持って産まれてくるかもしれないと言われたんですって」
「……つまり、中絶を勧められた?」
「ええ……でも、演奏家生命を断たれて間もなかった詩月くんのお母さんは──」