金木犀のエチュード──あなたしか見えない
2話/カフェ・モルダウ
「ママ、昨夜8時前の電話なんだったの」
出掛けに、玄関で訊ねた。
「詩月くんのお母さまから……今日は詩月がお世話になりましたと」
「わざわざっ……そんなことで。お悔やみに来てくれたのに?」
「細かいことをゴチャゴチャ言わないの。早く行きなさい。遅刻するわよ」
わたしは腑に落ちない母の返事に、首を傾げて家を出た。
街路樹の並ぶ坂道を数10メートル歩き、数筋角を曲がる。
山手の小高い丘の閑静な住宅街に私立聖諒学園はある。
外観をアール・デコ様式で統一した学舎は、高校は普通科と音楽科があり、エントランスホールを境に棟が分かれている。
そして、大学と大学院それに学生寮が、広い敷地内に建っている。
母が春先から体調を崩した祖母の看病で、たびたび祖母の家に通い始め、祖母の近くに居たほうが都合がいいと、7月半ば横浜に引っ越してきた。
出掛けに、玄関で訊ねた。
「詩月くんのお母さまから……今日は詩月がお世話になりましたと」
「わざわざっ……そんなことで。お悔やみに来てくれたのに?」
「細かいことをゴチャゴチャ言わないの。早く行きなさい。遅刻するわよ」
わたしは腑に落ちない母の返事に、首を傾げて家を出た。
街路樹の並ぶ坂道を数10メートル歩き、数筋角を曲がる。
山手の小高い丘の閑静な住宅街に私立聖諒学園はある。
外観をアール・デコ様式で統一した学舎は、高校は普通科と音楽科があり、エントランスホールを境に棟が分かれている。
そして、大学と大学院それに学生寮が、広い敷地内に建っている。
母が春先から体調を崩した祖母の看病で、たびたび祖母の家に通い始め、祖母の近くに居たほうが都合がいいと、7月半ば横浜に引っ越してきた。