青春のグラジオラス
 若干の皮肉を含んだ、しかもフルネームで僕を呼ぶ人物といえば一人しかいない。というかそもそも、僕に積極的に関わってこようとする人間がこの学校では彼女しかいない。

 「満たされている君の人生とは違うものでね、柚木かをりくん。とりあえずは悩める一人の少年の視界をもう少し広げてくれるとありがたい」

 僕のほうも皮肉で返す。無意識でこんな物言いになってしまうあたり、かをりに対して無駄な対抗心でも抱いているのかもしれない。

 かをりだからこそできる口の利き方だということもあるだろうけど、それ以上に彼女に論破されるのは僕が嫌なのだと思う。完全に無自覚なのはもはや病気と言ってもいい気がしていた。

 
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