青春のグラジオラス
 「いくら意志があってもそれを成し遂げるだけの力がないといけない、ってヨシさんは言いたいの?」

 いつの間にか蒸気機関車のように煙を吐き出していた煙草を見ながら僕は言う。無自覚に身体に毒なものをたくさん取り込んでしまっていた。

 「違うな。確かにそれも大事なことではある。でもな、それ以上に大事なのはもっと自分を信じるってことだ」

 まだ長い煙草の先端を僕に向け、ヨシさんはそう言った。きついタールのにおいが鼻をつく。

 「お前がいちばん苦手なことだよな。自分のことを信頼するってのは確かに難しい。それに怖い。でもそこから逃げてたら多分、お前は一生変われない」

 ヨシさんはなんでも知ってる。僕のぼんやりとした抽象的な全体像も、重箱の隅をつつくような細部も、全部知っている。

 「別によ、変わらないってのも一つの手だとは思うんだ。今のお前のままでも周りを傷つけるような生き方はしてないんだから、少し人見知りでそんな自分が嫌いな少年でもいいと俺は思う。けどお前自身が変わることを望んでるんだろう?」
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