青春のグラジオラス
 「ごちそうさま」

 思いの外ハイペースで平らげていた。美味しかったからというのもあると思うけれど、今日買った本を読みたいという気持ちもそこにはあった気がする。

 「買いたかった本は買えたか?」

 「うん。ヨシさんが少しだけ安くしてくれた」

 「お、よかったじゃねえか」

 親父とヨシさんは高校時代三年間同じクラスだったそうだ。お互いにお互いのことをよく知ってる。親父からときどきヨシさんの話も聞かされるし、逆に我楽多に行けば、ヨシさんから親父の話も聞かされる。正直なところ、もう聞き飽きている。

 「あいつは高校時代と全然変わってなくてなあ」

 それでも、親父が嬉しそうにヨシさんのことをしゃべっているのを見ると、いつまでも聞いていられる。楽しげな親父の表情を、僕は洗い物を手伝いながら眺めていた。


 片づけが一通り終わると、僕は部屋に戻って本を手にした。今日という日を、この一冊のために生きていた。なんだかビールを飲むときのオッサンみたいで自分が可笑しい。
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