青春のグラジオラス
 「僕の知っている猫は、人間と会話できないはずなんだけど」

 きっと周りに人がいたら、僕が変な視線を浴びることになっただろう。こんな言葉を猫に向かって言う機会なんてなかなかない。

 猫はこれでもかと言わんばかりに口を大きく開いてあくびをした。心なしか、どこか眠そうにも見える。

 「猫はしゃべらないということの証明はもう成り立たないにゃ。ボクが今こうしてしゃべっている事実がいちばんの証明になるにゃ」

 確かにそうだ。可能性の無さを言うためには、すべてを否定しなければいけない。僕が「猫はしゃべらない」と言ったなら、世界中の猫を集めてしゃべる猫がいないということを確認して証明しないといけない。明らかに現実的ではないけれど、否定するということはそういうことだ。これだから数学的な考え方は嫌いだ。

 「そうでもない。ひょっとしたら今この時間が僕が見ている夢だっていう可能性もあるじゃないか。そうだとすれば君は僕の夢が生み出した虚構になるだろう」

 なんだか妙な反論をしてしまった。この猫の性格次第ではすごく面倒なことになりそうだ。
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