青春のグラジオラス
 「デカルトの弁を借りるのであれば『コギト・エルゴ・スム』だにゃ。『我思う、故に我あり』。君が今現実世界にいるということは考えている君自身が証明しているにゃ。それとも君は今何も考えていないのかにゃ?」

 黙り込む。それに対してはまったく首肯できない。そもそも会話をしているという時点で思考しているのだから、何も考えていないわけがないのだ。というか、デカルトの弁を借りる猫なんて猫としてどうなんだろう。

 「…分かった。しゃべる猫がいることは認める」

 これ以上不毛な議論を続けても仕方がないのでそう言った。満足そうな笑みを浮かべる姿はまるで人間みたいだ。どこか腹立たしい感じがするのも無駄に人間味溢れているせいかもしれない。

 「でも君と話さないといけないのはこんなどうでもいい哲学の話なんかじゃない。僕はどうして僕がここにいるのかを知りたいんだ。君がここにいて僕の前に現れたということは、この空間の主みたいな存在は君なんだろ?」

 「どうだろうね。実際のところボク自身もよく分かっていないのが現状にゃ」

 猫は言葉を続けた。

 「でも、この空間とボクの役割ならよく分かるにゃ」
< 60 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop