青春のグラジオラス
 猫は確かな口調でそう言った。鋭い視線を僕に向けている。

 「この空間は君の後悔を見つけるためにあるにゃ。そしてボクはその後悔を取り除くためにいるにゃ。そのためにいろいろしないといけないことがあるんだにゃ」

 ずいぶんと漠然とした説明だ。結局のところ、僕がなぜこの空間にいるのかという疑問は解消されていない。その答えは猫も持っていないみたいだからどうしようもない。他に尋ねることのできる誰かがいるわけでもなしに、仕方のないことだ。

 「後悔を取り除くことなんてできるの?」

 それは明らかに現実的ではない。後悔とは過去の悔やみだ。どんなことをしても僕らは過去に戻ることなんてできない。一生消したりすることのできない苦しみや痛みを、抱えていくしかない。

 それを取り除くことなんて可能なのだろうか。記憶喪失にでもなればひょっとすると後悔も抱えなくていいだろうけれど、まさかそうなるわけにもいかないだろう。

 「できなかったら、最初からこんな非現実的な空間なんて生まれてないにゃ」

 なるほど。それは言えてる。
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