青春のグラジオラス
 けれどそう考えていることにすらも、諦めという感情は纏わりついている。はじめから、と猫が言ったのはそういうことだと思う。諦めという言葉に良い印象を持とうともしないし、嫌いな人の良いところを見つけようとすることもしない。

 
 他の誰かが諦めるよりも前に、僕はすべてを諦めている。


 おそらくは猫の言う通りだ。僕は誰かに、あるいは何かに、おおげさに言えばこの世界に。

 期待することもせず、何かを望むこともしないでいるんだ。


 「猫に僕のことが分かるなんて、驚きだよ」

 「ボクの言うことを認めているあたり、君は自覚を持っていろいろなことを諦めているんだにゃ」

 そんなこと考えたこともなかった。期待しないことが僕にとっての当たり前だったから、考えるまでもなかったんだ。

 『猫は孤独に生きているように見えて、実はいちばん孤独を嫌って生きているんだよ』

 ふと、柚木の言葉を思い出す。

 
 きっと僕は猫なんだ。無駄に強がってみせているだけで、僕自身がそれを望んでなんかいない。諦めたくないことも今までにあったのだろうけれど、それも諦めてしまう。心の底ではそれを望んでいないのに、そうしてしまう。
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