零れた液体に名前はつけない
「…動くな…仮に君がホシを数ミリにでも傷つけた時は僕の全てで君を壊す」
少女に延ばした鋭利な爪の前に、男が突如立ちふさがり僕を睨んだ。
ホシとは多分、彼女を抱く憎い少女のことだと理解した。
「…無力な人間を殺してきた君と、同種と対峙し戦闘に長けた僕。力の差を思い知らされたいの?すぐさま三歩後退しろ。出なければ僕は今この場で君の大切な妹の生き血を余すことなく飲み干し君の前に屍を散らす」
彼女は今、こいつらの手中にある。
下手なことは出来ない。
仕方なく後退すれば、少女が彼女を離した。
「…無理強いはしない。選ぶのは君達だ。でも、これ以上妹を泣かせたくないなら早く決断することだね」
滴の正体を気安く口にするな。
その液体の名前は、僕は一生知らなくていい。
知りたくもない、悲しい時にばかり流れる生暖かい液体の存在など、むしろ見えなくていい。
「いつでも来るといいよ。僕らはウツケモノ。その名前を探せばいい。行こう二人とも」
その場を茫然とする僕らをおいて三人は立ち去った。
彼女の嗚咽交じりの声だけが残った。