零れた液体に名前はつけない
「…いいよ。仲間にならなくても。でも方法は教えてあげる。もちろん無償で」
「…随分と気前がいい」
「言っただろう?これ以上の殺戮は君らの命の危険があるんだって」
「…ワタシ達の衝動は抑えられない。飢えたまま生きることもできない。それでも方法はある。赤い赤い、蜜より甘い濃い赤いの液体。それがワタシ達の食事。それは別に人でなくても構わない」
少女の言葉に男はほほ笑んだ。
「僕らはね、同種に限り互いを食べられるんだよ」
少女の頭を撫でていた手が、首に降りていくのをなぜか目を離せなかった。
「…人と同じ、血の流れる同種の血を啜るんだ。もちろん死なぬ程度にね。そうすれば人を襲う心配はないんだよ」
…互いを…食らえと言うのか?
「人は暴れる、抵抗する。だから殺してから血を啜るんだろう?だが同種ならば、了承さえ得れば殺す必要もなく血が得られる。なんて便利なんだろうね僕らは」
便利?
それじゃ、まるで
「…けだもの…」
血を飲めば、もうそれは食事だ。
互いの血を飲んだその時から、相手は餌…
なんて残酷、狂っている。
それでもそれが最善だと男は笑う。
「僕らウツケモノはそうしてるんだ。少人数だけどね。互いの了承を得て互いを食らい合う。ああ、僕はこの二人以外の血はむりだけどね」
「ヤシ兄は潔癖なんすよ」
「僕が愛しているのは二人だけだからね。他の生き物の血液が身体を巡るなんておぞましいことだよ」
「…ヤシ兄は希少なタイプっす」
「…ワタシの血はお兄の中にある。それは素敵なこと」
「ホシは可愛いね。よしよし」
「…兄さん…」
互いを食べる?それがどれだけ汚らわしいことか理解しての発言か。
互いの喉元に被りつくケダモノ、それが狩子のなれの果てか。