うっせえよ!
誠司さんが車を家の前に停めて、プップーとクラクションを鳴らした。
「ねえ、母さん。普通、ああいう時、降りてくるもんだよね?」
「ホントよねえ。一言何か言って、頭を下げるくらいしないとダメね。」
「ね? ダメ男でしょ?」
「そうね。お父さんそっくりのダメ男ね。」
クラクションがもう一度鳴ったところで、私は鯉の餌を母さんに渡した。
「じゃ、行ってくる。」
「行っておいで。」
「……ちょくちょく帰るから。」
「たまにでいいわよ。」
「そうはいかないわよ! 結婚式の段取りの相談だってあるんだし。」
「わかったから、さあ、早く。」
母さんにそう促され、私は家の敷居を跨いだ。
そして、一度、振り返ってまじまじと長く育った家を見上げた。
だらしなく広がった松の枝が塀から飛び出していた。