うっせえよ!
ドリンクが来て、それから乾杯! というところで、笹川さんの電話が鳴った。どうやら、もう一人の男が着いたらしかった。
「ああ、24番の個室だよ。ほら、トイレの近く。」
笹川さんがそう説明していると、個室のふすまがガラッと開いた。キメッキメのスーツ、右手のロレックス・サブマリーナデイトが間接照明に反射してきらりと光るその男は、頭を掻きながら低姿勢で入ってきた。
「いやあ、すみませんね。仕事が長引いてしまって。」
……何かの間違いかと思った。きっと私は夢でも見ているんだ。
あれほど丁寧な言葉遣いだった笹川さんが「遅えぞ、カッシー!」と遅れてきた男をいじっている。それを見て、明美も女子特有の愛想笑いをしている。
本来なら私もここで口角を少し上げているところだろう。しかし、私の口角は逆に下がってしまっていた。
「あっ!」
カッシーこと、遅れてきた男が思わず私を指さした。周りが私とカッシーを交互に見ている。
「知り合い?」
明美からそう訊かれ、私とそのカッシーなる人は「全然!」と口を揃えて言った。
私はどこまでこの男と縁があるのだろうか……思わず頭を抱えた。