うっせえよ!
大木りんは「難攻不落な断崖絶壁女」の称号を手に入れた。
年末には決まって大掃除をするのが、実家でのルールだった。
母さんを筆頭に、家族全員が任された仕事をこなす。いつもは寡黙で、厳粛な父さんもこの日ばかりは母さんに使われる部下と成り下がる。
「働かざる者、食うべからず。」
母さんはこの言葉を自分流にアレンジして、
「掃除せざる者、住むべからず。」
と言って、私たち家族の士気を高めたものだ。というのも、大掃除が終われば、どの家でも紅白歌合戦を観ながら年越しそばを食べると思うが、我が家ではそれがすき焼きだった。
タレの染みた牛肉を溶き卵に潜らせて、口に運ぶ。それはもう幸せが向こうから歩いてきたように思え、だから箸は歩いていくといった感じで、エンドレス。
しかし、牛肉ばかりを気にしていては、つまらない。ネギ、豆腐、しらたき、エノキ、白菜、春菊といった、引き立て役にも注目する。
牛肉はあっという間になくなってしまうが、焼けるのに時間がかかる。だから、焼けるまでの間はハーフタイムということで、他の具材で繋ぐ。またこれがどれも美味しい。
それも、歳を重ねるごとに美味しいと感じ、ああ、私は成長しているんだなと感慨深くもなる。
シメも忘れてはならない。タレの染みたうどんを、これまた溶き卵に潜らせて食べるもよし、ご飯を入れてネギを散らして雑炊風にしてもよし、その雑炊の残りを翌日、油で炒めてチャーハンにするのもよし、余った溶き卵をアツアツのご飯にかけて卵かけご飯にするのもいい。
それもこれも、午前中、頑張って大掃除したから美味しく感じるのだ。