優しく愛した

 異性に髪が触れたから恋人の髪を切るという異常行動。

 だが、実際にオナガがその現場を見てしまえば髪を切ったりはしなくとも何かしらの行動に出るだろう。

 彼女の場合はベニハシに対してでなく、その相手に対してだろうが。

 そういう所は似ていると思った。

 だが、それが呪いとは思えない。

 昔、と彼女は言う。

 髪は時間が経てば伸びるんだ。

 それならば片側も切る、もしくは両方伸ばすなど方法はいくらでもあるだろう。

 随分前に二人の関係は終わっていると聞いているからなおの事。

 それのどこが呪いか。

 身体に傷が残るものでもないだろうに。

 そこまで考えて、とても嫌な考えがよぎった。

 …嫉妬によって髪を切られた、それが呪い。

 それを今もそのままにしている。

 鏡を見る度思い出すだろうその光景を。

 それが、呪いか。

 自分の姿を見る度姿を思い出す。

 その姿をずっと保っていること、それはつまり。

 「…みれん」

 ベニハシには聞こえなかったらしい。

 聞こえないように言ったのだから当然だろう。

 呪い、それは未練のことか。

 捨てきれない恋人との思い出、記憶。

 今でも再現し、それこそ忘れないようにと…

< 3 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop