恋なんていたしません!
「だから3次元の男は信じられないんだよ」

事務所の前に置いてあるタイムカードを押すと、マスクをゴミ箱に捨てた。

帽子を脱いで更衣室へと向かおうとしたら目の前に段ボールを乗せた台車がやってきた。

さっと隅の方へと避けると、
「ありがとうございます」

台車を押して目の前を通り過ぎた男に、私はチッと舌打ちをしたくなった。

不運には不運ですか。

泣きっ面に蜂と言うヤツですか。

「お疲れ様です」

本当は無視してやりたいけれど、同じ店で働いてる手前そんなことはできない。

「お疲れ様です」

彼――青果部に勤務している2歳年上の一ノ瀬智之(イチノセトモユキ)は爽やかな笑顔で会釈をした。

一ノ瀬の後ろ姿に、私は心の中で中指を立てた。
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