恋なんていたしません!
「あっ、もうこんな時間だ」

思い出したと言うように、一ノ瀬が言った。

時計に視線を向けると、後少しで10時になろうとしていた。

「夜分遅くに失礼してすみませんでした。

これ、本当に美味しいのでぜひともやってください。

ではまた」

一ノ瀬は会釈をするように頭を下げた後、その場から立ち去った。

バタンと、ドアが閉まった音が聞こえた。

一ノ瀬が出て行ったことを確認すると、皿に乗せられているりんごとチーズを挟んだそれを捨てようとした…けれど、食べ物には罪はない。

気は進まないけれど、指でつまむと口に入れた。

「…美味い」

りんごとチーズの相性はどうだろうと思っていたけれど、一ノ瀬の言う通り美味しかった。
< 55 / 102 >

この作品をシェア

pagetop