寂しさを抱いて
第三章 心恋 ⑤

 翌日になっても気持ちは晴れないまま、何となく一日が過ぎていった。隣の席の矢野とは相変わらずちょくちょく会話をするが、矢野と話す度に罪悪感が募っていった私は、できるだけ休み時間や放課後はさっと彼の前からいなくなることにしていた。
 彼方も、矢野のいないところで私と話したいと思っていたらしいので好都合だった。
「高ちゃん、いよいよ明日デートだよ!」
 金曜日の昼休み、彼方が興奮気味にそう言った。
「そうだったね。彼方、緊張してる?」
 私はちょっとおどけた感じで彼方の顔を覗き込む。
 自分の本当の気持ちがどうとかいう前に、あくまで私は彼方を応援している。いや応援したい。
「き、緊張なんて、し、してないよ」
「うそー、すっごい緊張してるじゃん」
「そんなことないって…!」
「ふふ」
 いつもは陽気に周囲を和ませるのに頬を赤らめて否定する彼方が可愛らしくて、私は今まで悩んでいたことも忘れて笑った。
「高ちゃん、ぶっちゃけ楽しんでるでしょう?」
「そりゃ楽しませてもらわないと」
「もー、高ちゃんってば…」
 そういう彼方は恋に悩む普通の女の子で、何とかして助けてあげたくなる。
彼方と矢野がうまくいってほしい。
そうすればきっと、何もかもがうまくいく。
彼方の恋煩いも、私のくだらない悩みも解決される。
きっと、きっと、きっと――。
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