BORDER LINE
★【Side.朝倉】
私は、美術部の部長、東センパイを待っていた。

東 俊弘(あずま としひろ)、こと東センパイは、三年生、いわゆる受験生ってやつだ。

真面目な東センパイは、希望参加の大学入試突破講習を受け、シャープペンシルをカリカリ動かしていることだろう。

あと二十分は、美術室に顔を見せないにちがいない。

バリバリの考査期間であるものの、コンクール間近の美術部は、放課後も校舎に居残ることを許されている。

私は、昨晩のうちに、コンクールの絵を描きあげてしまっていた。

コンクールテーマは、〝美しきもの〟。

キャンバスには、雨雫の重みか、溢れんばかりの花弁の重みか、深く枝垂れる薄紫の花が繊細なタッチで描かれている。

柔らかな五月雨をうけて、よりいっそう美しく咲きほこる藤の花。

あとは、東センパイに、このキャンバスをみせて、オッケーが貰えたら、考査対策にバッチシ専念できるってわけだ。

———でも、

私の指先が、油絵の具の浮き上がったキャンバスをそっと撫でた。

———ホントに、私は、これで満足しているの?

ふと心によぎった不信は、何年も前から私にしつこくつきまとってきたもの。

描いても、描いても、離れてくれなかったもの。
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