BORDER LINE
———ドッペルゲンガー?

少女のコトバを聞きながら、私の頭ん中では、バリバリの現代人らしからぬ、オカルトチックな単語がチラついていた。

〝私〟は、まるで私の頭ん中を読みきっているかのようで、

「ドッペルゲンガーさんは、あなたの方でしょう?」

憐れむように眸を細める。

「え?」

喉元がヒュッと鳴り、背筋が、ぞわり、と逆立つ。

「物わかりが悪いのねぇ。だから、私が朝倉 佳純よ。」

その幼い子や、ボケちゃったおばあちゃんを咎めるような口調に、

私ん中の、ずっと信じ続けていたものが、バラバラバラと崩れかかる。

〝私〟は、さも楽しそうな眸で、私の顔を覗き込む。

「ようやく理解できた?ドッペルゲンガーさん。」

嘲笑を含んだその眸に、私は、表情筋が強張り切っているのに気がついた。

———まずい。これじゃあ、こいつのペースじゃない。

私は、ペチペチ自分の頬を叩き、むにむにっとつねってみる。

———大丈夫、私はここに生きている。私が朝倉 佳純よ。

心ん中で、三度唱える。

そして、無理くり唇の端っこを押し上げて、

「ま、そんなことどうでもいいじゃないの。ねぇ、あなたの絵を見してよ?」

と、強気の言葉尻とは正反対に、私は、震える指先を〝私〟のキャンバスに向けた。
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