BORDER LINE


朝倉 佳純、つまり、俺が8年間片想いしている女だが、

そいつは、9歳のトクベツに蒸し暑かった、あの初夏の日、ひょっこり転校してきた。

その早朝からトクベツに暑い日、額に汗を浮かせて、教室に入ってきた俺は、黒板の前で足をとめた。

いつもなら、

「エアコンつけろよぉ〜。」だの、

「職員室だけずりぃんだよぉ〜。」だの、

大人曰く〝子供あるまじき不満〟のひとつでも、グダグダ零すところなのだが。

何故か。

クラスメイトが皆、ランドセルを放っぽっりだして、黒板にワーワーつめかけていたからだ。

チビの女子なんか、「黒板、見えないよう」とボヤきながら、人だかりの背後から、プルプルのつま先立ちで、首を伸ばしている。

俺も、すぐさま、ランドセルを机へ放り、黒板前のおしくらまんじゅうに加わる。

早朝のピカピカな筈の黒板には、

〝ようこそ あさくらかすみちゃん〟とカラフルなポップ文字が踊り、

その下で〝ふたりはプ○キュア〟のホノカとナギサが、ニコニコ仲良く、変身ポーズをキメていたのだった。

この黒板アートは、担任の高松センセ(図工教諭)が、睡眠時間とチョークを削りに削って描き上げた、超力作なのだろう。
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