BORDER LINE

一ノ瀬のお粥をくつくつ煮立てている間に、

「何よ、ちゃんと出来てるじゃないの、このカツ丼も、私も。あんのバカ。」

私は、恨み言を零しつつ、一ノ瀬がつっかえしてきた、カツ丼を平らげた。

私は、粥にとき卵を軽く絡ませてから、鍋にスプーンをつっこみ、盆にのせた。

一ノ瀬ん家には、あの窓からではなく、きちんと玄関から入った。

鍋の盆を手に、よじよじ屋根伝いなんてあぶないというのもあったけれど、

あの窓をくぐったら、何となく私は泣いてしまいそうな気がしてならなかったから。

昔から、あの窓は、私を泣き虫にする。



一ノ瀬は、また、眠ってしまっていた。

おくすりぶくろから散らばった薬を端っこにのけ、枕元のナイトテーブルに、鍋ののった盆を置く。

コップの水も注ぎ足しておく。

それから、布団をかけ直し、

「一ノ瀬、卵粥にしたわよ。文句は一切受けつけないからね。起きたら、ちゃんと食べなさいね。」

穏やかな寝息をたてている、一ノ瀬に小さく囁いて、照明を消してやる。

小綺麗な部屋だ。

薄暗くなった部屋に、オレンジ色の西日が差し込み、床に一筋、線を引いていた。

それは、一週間ほど前の美術室を思い出させる。

私には、ものすんごい絵なんて、描けない、そんなこと、とっくのとうに気づいてたはずなのに、

私は、確かにあの日、もう一人の私に呑まれた。
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