BORDER LINE
私たちの間を沈黙が流れる。

いつの間にか、もう一人の〝私〟が、私に擦り寄ってきていた。

〝私〟の腕が私に絡みつき、眸を細めて、優しくあやすように私の耳元で囁く。

———でも、貴方には描けないでしょう?」

———それでも……一ノ瀬は私が描くのっ!描くのは、あんたじゃない。私は、あんたよりものすんごい絵を描くんだから。あんたは邪魔よ。あっち行ってよ。

私は、絡みつく腕を引き剥がした。

———離せ、私が朝倉 佳純だ!

そして、〝私〟を力一杯、蹴り飛ばす。

「一ノ瀬、それやるっ!」

「……おぅ。」

一ノ瀬は、私の気迫に気圧されがちに頷く。

「で、朝倉、絵画コンクールの〆切はいつだっけ?」

「……来週の月曜。」

明後日だ、間に合わない、コトバの端からぼそりと零れた不安はすぐに掻き消された。

「よし、間に合うな。俺ん試合が日曜にあるんだ。徹夜してでも、俺の剣筋、気勢を描ききんな。俺は、キャンバスにおさまっちまうような男じゃねぇけどよ?」

一ノ瀬が軽口を叩き、笑って、私の頭をそっと撫でる。

その笑顔は、心なしか安堵を孕んでいた。

———この男、一丁前に私を心配していたのか。

なんだか気恥ずかしくなって、私は、俯く代わりに、一ノ瀬にぎゅーぎゅーひっついた。

「ふん、あんたこそ、日曜の相手に負けないでよね。ダッサイから———」
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