BORDER LINE
———毎日、毎日、同んなじことを繰り返しているうちに、私から、若々しさとか、美しさとか、そういうものが、ボロボロと零れ落ちていくのに堪えられないの。
あの人はそう苦しげに泣いたけれど、
絵を描くあの人は、誰よりも美しかったのだと。
あの人の見つめるキャンバスには、腰を振りさも楽しそうに自画像を描く老婆の姿があった。
作品名は、〝美しき老婆〟。
そのとき、私の肩にポンと手をのせる者がいた。
パッと振り返ると、黒のトレンチコートを羽織った一ノ瀬が立っていた。
「あ、一ノ瀬、来てくれたのね。嬉しいわ。忙しいのにありがとね。」
私は、適当な謝辞を添え、一ノ瀬も笑って応える。
「別に、バイトも入ってなかったし。それよか、いいのか?」
一ノ瀬は、ちらり、とあの人に視線をやって、私に示した。
相も変わらず、つまらない事によく気がつく男だ。
私も、六年前、それに助けられたのだが。
もう一人の〝私〟に呑み込まれた私を引っ張り上げたのが、この男だった。
「いいのよ、もう。」
私の口もとには、自然と笑みがのる。
———私は、絵のことも、あの人のことも自分勝手に整理がついてしまった。これで終わりだ。
「ね、それより、お腹すかない?私、もうすぐ交代の時間なの。」
「どっか食いに行く?」
一ノ瀬が、コートのポケットから、スマホを取り出す。
その隣で、私は、ぐぃーっと、背中をのばした。
「そうね———」
あの人はそう苦しげに泣いたけれど、
絵を描くあの人は、誰よりも美しかったのだと。
あの人の見つめるキャンバスには、腰を振りさも楽しそうに自画像を描く老婆の姿があった。
作品名は、〝美しき老婆〟。
そのとき、私の肩にポンと手をのせる者がいた。
パッと振り返ると、黒のトレンチコートを羽織った一ノ瀬が立っていた。
「あ、一ノ瀬、来てくれたのね。嬉しいわ。忙しいのにありがとね。」
私は、適当な謝辞を添え、一ノ瀬も笑って応える。
「別に、バイトも入ってなかったし。それよか、いいのか?」
一ノ瀬は、ちらり、とあの人に視線をやって、私に示した。
相も変わらず、つまらない事によく気がつく男だ。
私も、六年前、それに助けられたのだが。
もう一人の〝私〟に呑み込まれた私を引っ張り上げたのが、この男だった。
「いいのよ、もう。」
私の口もとには、自然と笑みがのる。
———私は、絵のことも、あの人のことも自分勝手に整理がついてしまった。これで終わりだ。
「ね、それより、お腹すかない?私、もうすぐ交代の時間なの。」
「どっか食いに行く?」
一ノ瀬が、コートのポケットから、スマホを取り出す。
その隣で、私は、ぐぃーっと、背中をのばした。
「そうね———」