BORDER LINE
試合(剣道)10分前。

眼を凝らすが、観客席に、
切る暇もない、そう言わんばかりに腰ほどにまで伸ばされた、
あの特徴的な黒髪は見えない。

あんのバカ幼なじみは、
十年来の付き合いになる俺の一世一代の大試合が始まるってのに、
まだ武道館の外なのだろう。

「描きたい」、その激しい欲求と、食い意地だけで、真っ直ぐ生きる少女のことだ。

武道館裏のなんちゃら広場で、
悠々、白いキャンバスに向かっているか、
おにぎりにパクついているのだろう。

あまりに自由な少女の姿を想像し、自然と溜息を吐いた———。
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