イケメン・コンプレックス

嵐の夜に





ソファーにだらしなく座り、スマホをいじる。
暗いリビングにキッチンからトントンという野菜を刻む音と優しい光が流れてくる。

休日も半分を過ぎ終わりに近づいていた。

せっかくのお休みだが外は大雨で雷まで落ちている始末。
どこに行く気にもなれなかったのだ。

晴れていたら、バカズキの家に遊びに行ったのにな。


「湊、ちょっと卵買ってきて~?」


「はっ⁉」

突如キッチンから届く母のお願いに思わずそう言った。
まるですぐ近くのお店みたいな軽いノリだが、ここから近くのコンビニまで歩いて20分はかかる。
しかも、なぜこんな日に卵⁉



「オムライスなのに卵買い忘れちゃったのよねー。パパ悲しむでしょ?」


「いやいや、危ないでしょ。」


よりによって卵なんて。
無事に割らないで帰ってこれるだろうか?
風も強いし、外の様子からすると無理そうなのだが。


「まだ6時だし、湊なら大丈夫よ。連れ去られる心配はないわ。」


驚きを通り越してため息が出る。


「そっちの心配じゃなくて、あんな大雨の中行かせる気⁉」


「え・・・あらっ、大嵐じゃないっ!気づかなかったわ・・・」


あらまぁと呆然とする母に、二度目のため息が出た。

家の中だからといってこんな強い雨音と雷鳴が聞こえないはずないのだけど・・・
鈍感、天然なのはいつもの事だ。


「じゃあ、タクシーで行ってきて?コンビニでと思っていたけどタクシーで行くなら、デパートまで行ってもらおうかしら。いつもの卵ね?」

そう言いながらも違う食材もメモに書き始める。

メモを見ながら愕然とする。
夕飯に卵、間に合うだろうか?


雨具を身に着け、玄関でタクシーを待つ。
憂鬱な気分で空を見上げた。
さらに酷くなっている気がする。





< 6 / 13 >

この作品をシェア

pagetop