私のいとおしい残念な男達
「なんだお前、ダイエットか?」
ギクリッと背筋に電流が走るくらい肩があがる
「黒木さんっ」
モモちゃんの声が弾む
恐る恐る振り向けば、朝のあの最悪な空間で見たままのスーツとネクタイ、そして嫌味なほど整った顔で、人を見下ろすような態度
「ち、ちっ違うわよ。た、たたただ食欲がないだけよ」
しまった、動揺で口がうまく回らない
「なんだ、まだ酔っぱらってんのか?」
やめてよ、一応貧血って事にしてあるんだから
あんたは目立つから、アッチに行ってよっ
185㎝もある長身で、無駄のない体型
少し癖のある黒髪に小さな顔。
整った鼻筋と切れ長の瞳は、笑顔なんて向けなくてもそこら辺の女達を虜にしてしまう。
そんな、一見チャラそうなこの男は、
『企画宣伝広報部』所属のクリエイティブ部門ではそこそこ仕事は出来るらしい
有名企業相手に、プレゼンを勝ち取る事黒木ありと言われているとかいないとか……
それに広報部は社屋の15階からのフロアー
いわゆる《中層階部署》
私たち10階以下にある輸入事業部からしてみれば華のエリート部署なのに
なのに、こんな安上がりで財布にやさしいだけの食堂に何の用だよっ
「…………」
しかし、なぜか4人座りテーブルの席の1つに奴が座っている。
モモちゃんが「席空いてますよ」と引き入れたのだ
……………しかも私の目の前に座りやがった
微かに頭の片隅に覚えがある
昨日の奴の体温だったり
耳元で名前を吐くように囁かれた声だったり
「…………っ」
変態かっ?! 忘れろ私!
つい、フラッシュバックしてしまうから、目の前で顔が上げられない………
口を閉じ食べる事に集中して、黒木に何かと話し掛けているモモちゃんとの会話も、聞こえない振りをする