私のいとおしい残念な男達
「はぁ……ずりィ、この最低女」
だったら私なんて構わなきゃいい
「黒木には、いくらでも他にいるじゃん」
さっきの女の子みたいに、あんたを本当に好きになってくれる子が
「お前だって全力で抵抗しないじゃん……」
腕は外れたのに、手だけは外れない
絡んだ指先に、確かに嫌悪感や拒否したい気持ちなんて持てない
「……黒木、携帯鳴ってる」
黒木の胸ポケットから、微かな音だけど響いて聞こえてくる
LINE電話の音だからプライベートの着信だ
「……………」
「出ないの……?」
着信名を見つめた黒木が、呼び出し音の鳴ったまま私の前に携帯を差し出した
「和馬からだけど、出るか?この時間だと社内からだろ」
「!」
慌ててふるふると首を振った私の手を掴んだまま、電話に出る黒木
『波瑠、もう帰ったか?』
微かに聞こえてくる和馬の声に、身体を引いた
「いや、まだ社内にいる……」
その状態でも話し始める黒木
「飲みに?いや、まだ終わってないけど……」
和馬から飲みに誘われてる?
「…………」
一緒にいることがバレないように自分の声を出さず口を塞ぐ
「ああ、小夏なら……」
「!!」
「だいぶ前に帰ったのをロビーで見掛けた、それに俺もまだ終わらねぇから今日はパス」
「……………」
白々しく電話を切った黒木を睨みつける
「嘘つき」
「3人で飲みになんか行くかよ……それにまだ仕事が終わってないのは本当だ」
そう言って手を離し、私を通り過ぎた
階段を駆け上がり、3階の非常階段の扉から社内に入っていった