私のいとおしい残念な男達

「噂?」

「その社員が井ノ上物産経営者社長の三男だって………」


「井ノ上物産か、なるほどね………」

黙って聞いている小夏の隣で、和馬が暫く考え込んだ

「そいつが小夏の部署のセクハラ野郎だって、飲み屋でそんなに酔ってないはずの小夏を連れて行ったって聞いて……」


実際にはすぐにタクシー乗り場に行こうとしたが、一瞬の直感で方向を変えた

『近くて安上がりだし時間もないから、まさに「安近短」だろ?』
全く関係ないそんな話を思い出して、嫌な予感が過ぎった


「そいつから取り上げた薬、小夏の飲み物に半分入れたって白状させて逃げられた」

そう言って小さな錠剤の包みを和馬に渡した


「それ、本当………?」

まだ自分の状況にショックを受けている小夏

考えてみたら、月曜日に会社へ行けばまたあいつが居る部署へ行かなければならない

「来週、少し会社を休んだらどうだ?」

小夏がいない間に俺がもう一度あいつをシメてやる、そうすれば………

そう思ったが、会社は休まないと首を振る小夏に和馬も
「大丈夫、小夏は心配しないでいいから」と笑顔を見せる


「…………」

その笑顔に少し安堵していた小夏



小夏にはカフェオレ、俺にはブラックで自分には砂糖クリープをいつものカップに入れて
一息ついた

< 147 / 410 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop