私のいとおしい残念な男達
「あっ、いや実は俺お前に話があったんだ」
急に改まってそう言いながら、トレーを片付けに行く黒木の後を追いかけていった
「小夏、また今度メールする」
一度振り返り手のひらを上げ、そうして黒木の横に並ぶ
それを私も見ていないと分かっていながら二人の後ろ姿に身体と笑顔を向けて手を振った
食堂を出ていく二人の姿が見えなくなる頃、こそりと視線を感じ、潜めた声が聴こえてくる
『ほら………あの人、輸入部の彼女って……』
「…………」
『桐生さんのあの噂ってどうなんだろぅ………ねぇ』
『でもさぁ、この会社の常務の娘だよぉ。
とりあえず直ぐには断らないでしょう………出世に響くもんっ』
ああ………食堂って、騒がしいからつい声が聞こえないだろって思うんだよねぇ
『でも、さっき彼女とは仲よさそうだったじゃん。噂じゃあもう終わってるって聞いたのに………』
だから何だって言うんだ、聞こえるっつうの!
「はぁ………」
当事者じゃなかったらそんな話、楽しくて仕方ないのは分かるけどね
「桐生さんと黒木さんのツーショットも久しぶりですねっ」
にこやかにそう言うモモちゃんには本当に眉が下がる
「本当、久しぶりに会えた彼女より、男友達に話ってなんか怪しくない?」
「………………そこは仕事の話でしょ?」
広報部と営業部はそれなりに繋がりがある。
すぐまた、そうやって何か不安にさせる言い方するんだから舞子は………
「一緒にいる時の多い黒木君と話をする時間があるなら、恋人の不安くらい取り除くべきじゃない?」
「小夏先輩、まだ噂の話桐生さんに聞いてないんですか?」
「…………」