私のいとおしい残念な男達
「な、何っ?!」
扉の横壁に背中を打ち付けられ、顔を上げると、目の前のその遥か上から黒木が見下ろしてきた
「お前さぁ、本当は俺が和馬に何か言うんじゃないかと思ったんだろ」
「…………っ」
腕を掴まれたまま、その顔が耳元まで降りてくる
「昨日お前の女とやったよ………とか?」
ゾクッと耳に吹き付けられる息に肩を上げる
「……………い、言ったの?!」
やっぱりこいつ、たちが悪い
まさかと思い直視すると、奴は私の顔を覗き込んできた
「それよりお前は、なんで和馬に常務の娘との事訊かねぇの?」
う"っ………人が極力避けてる話題を
「………そんな事、黒木に関係ないでしょっ」
俯いて顔を逸らせると、奴は口角をあげてクックッと失笑した
「訊けねえか、自分の方が浮気してるんだから」
「……………っ」
掴まれた手を振りほどき腕を引いて、もとの扉に戻ろうと身体を翻すと、扉との間を黒木の足で遮られた
ダンッ
その長いスーツの足を壁に押し当て、私の前を通せんぼする
「どいてっ」
奴を睨み付けると、目を細め顎を上げて、逆にこっちを睨み返してきた
「さっきだって嘘ついてやっただろ? お友達に『タクシーで帰らせた』なんてお前が単純に言い訳しそうな嘘」
「…………っ」
「和馬にも一応言ってねぇし、小夏にはこれで貸し2つだな」
壁に足を掛けたまま、腕を組み得意気にそう言った
「なっ、貸しって何よっ………?」
「そりゃぁ…………お前」