私のいとおしい残念な男達

「黒木、ここでいいから」

正直まだ早い時間だ
家に9時半くらいには着いてしまう

忙しいって言ってたのに、残業はなかったんだろうか、うちの方向の改札へ進もうとする黒木


進む後ろから背広を掴んでそう言うと、
振り返るその遥か上にある不機嫌な顔に見下ろされ、思わずその手をを引いた


「ちゃんと帰るからっ」

こんな格好で寄れるところなんてないし………

ジッと見られた後、目の前でいきなり上着を脱ぎだした


「え、何?!」

脱いだ上着をノースリーブの私の肩に被せ「着て帰れ」なんて言い放つ


冗談じゃない、こんなちぐはぐな格好で帰れる訳ない

ふるふると首を振ると


「いいから着て帰れ、後返せよっ」

そう言って、首元を掴まれ黒木の上着に包まれた


「えー………っ」

顔正面から「脱ぐなよ」と言われ、改札口に押し込まれた






「デカ過ぎ、長過ぎて袖も通せないよぉ……」

そこそこ乗車率のある車両の中、出入り口ドアに凭れたまま、顔を伏せて車窓の暗い外の景色を眺める

大き過ぎる背広のジャケットで、ほぼ買ったワンピースは覆い被さっている

「…………結構気に入って買ってきたのに」

まるで似合わない、なんて言われた気分だ

「罰ゲームみたい……」


沈んだ気持ちで不貞腐れながら自宅への道のりを急ぐ



「煙草の匂いもするし………」

普段から吸っている煙草の銘柄の匂い
黒木の匂いだ

そういえばあの人と一緒にいたのに、香水の匂いはしない
なんとなくその事にホッとした
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