私のいとおしい残念な男達


「これですよ、ほら黒木さんの背広」

すでに紙袋は阿部君の手に、明細書は戻せないまま……


「あれ……で、七瀬さんが聞きたい事って?」

すぐに阿部君から、さっきの会話の返しがきた

「ああ、あ、あの、いやこれ、これ返しに来ただけだから、じゃあこれで……っ」


阿部君の持つ紙袋を指差しカニ歩きに背中を隠してその場を下がる

「小夏?」



すぐ足早に、エレベーターへ向かった




やばい、挙動不振すぎた

「おいっ」

「ひっ!!」

追っかけてきたァァ!

エレベーターが来ないまま、さり気なく逃げるように隣の非常用階段の中へ

急いで階段を降りているのに、脚の長さにはやっぱり差があって

あっさりと捕まってしまった…………


「何逃げてんだっ?」


「お、追いかけてくるから………」


腕を掴まれて、仕方なく階段の踊り場で足を止めた

「お前は10階以上階段で降りるつもりか?」

追いかけて来た割には、全然息の切れてない黒木

私はといえば、なぜか止まらない動悸が……
つい、顔を伏せて目を逸らした

「なんだこれ?」

目敏く私が手に持つ潰れてクシャクシャになっている明細書を見つけられ、奪い盗られた


「あっ……」


「明細書……?これ、俺のか?」


「……………」


ジッパー付きの袋から、明細書を取り出した黒木


「小夏がなんでこんな物持ってるんだ?」


「それ、あの背広の中に入ってたのよっ」


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